「まだ決められない」が一番危ない——実家を空き家にしたまま放置すると何が起きるか

親が亡くなって、気づけば1年が経っていた。実家には誰も住んでいないけれど、何をどうすればいいかわからない。兄弟とも話し合えていないし、思い出がある家を「売る」と決めるのも気が引ける——。

そういう宙ぶらりんな状態のまま、時間だけが過ぎていく。

「うちの実家のことだ」と感じた方がいるとしたら、この記事はあなたのために書きました。

「まだ決められない」という気持ちは、至極まっとうです。親の家を片付けるのは、物理的な作業であると同時に、心の整理でもあります。急いで決めることが正しいとは限りません。

ただ、知っておいてほしいことがあります。「何もしない」という選択にも、確実にコストがかかっているということです。

この記事では、空き家を放置するとどんなことが起きるかを正直にお伝えします。

まず知っておきたい:日本の空き家の現実

総務省の調査によれば、全国の空き家は約900万戸(2023年)に達しています。日本の総住宅数の約13.8%です。

さらに深刻なのは、この数字が今後も増え続けるという推計があることです。2040年前後には、3〜4軒に1軒が空き家になるという試算もあります。

「うちの実家もその一軒になっている」と実感している方は、今とても多い。あなたが「まだ決められない」と感じているのは、決して特別なことではありません。

ただ、こうも言えます。空き家の問題は、放置するほどに選択肢が狭まり、費用が増え、心理的な重さが増していくという性質を持っています。

では、具体的に何が起きるのでしょうか。


放置すると起きること①:固定資産税が増える可能性がある

「空き家を放置すると固定資産税が6倍になる」という話を聞いたことがある方もいると思います。

現在、建物が建っている土地には「住宅用地特例」という制度があり、固定資産税が最大6分の1に軽減されています。つまり、建物がある限りは税金が安く抑えられている状態です。

ところが、空き家対策特別措置法(2023年12月改正施行)によって、管理が不十分な空き家が「管理不全空き家」または「特定空き家」に指定され、自治体から勧告を受けると、この軽減措置が外れます。その結果、最大で現在の6倍程度の固定資産税がかかる可能性が生じます。

状況固定資産税の扱い
適切に管理されている空き家住宅用地特例が適用される(最大6分の1に軽減)
管理不全空き家(勧告後)住宅用地特例が外れる(最大6倍相当になる)
特定空き家(勧告後)同上

「うちの実家はまだ大丈夫」と思っている方へ——指定されるタイミングは突然やってきます。屋根が傷んでいる、雑草が繁茂している、窓が割れている、といった状態が近隣からの苦情につながり、行政が動くことがあります。

なお、京都市では2026年以降に「空き家税」の課税が始まる予定であるなど、自治体独自の空き家対策も強化されています。「今は大丈夫」が通用しなくなる地域は、今後全国的に増えていく可能性があります。

「今いくら払っているか」を確認してみる

まず、自分が相続または管理している実家の固定資産税の金額を把握していますか。毎年送られてくる「固定資産税の納税通知書」を確認してみてください。それが基準値です。この金額が将来的に数倍になりうるということを、頭の片隅に置いておいてください。


放置すると起きること②:建物が劣化し、解体費用がかさんでいく

空き家は、人が住んでいない建物です。

人が住んでいる家は、日常的に換気・清掃・補修が自然に行われています。しかし誰も住まなくなった家では、それがすべて止まります。

湿気がこもり、カビが生え、木材が腐り始める。屋根や外壁のひび割れが放置される。害虫・小動物が侵入して巣を作る。

建物の劣化は、放置した年数に比例して加速します。「来年また考えよう」の1年が、解体費用を数十万円押し上げることがあります。

解体費用の目安:
木造一戸建ての解体費用は、一般的に3〜5万円/坪程度です。30坪の建物であれば90万〜150万円。これが、建物の状態が悪くなるほど(重機が入りにくい・アスベストが含まれているなど)上乗せされていきます。

「解体するならどうせお金がかかる」というのは事実ですが、今年動くのと5年後に動くのとでは、かかる費用が変わってくるということは知っておいてほしいポイントです。


放置すると起きること③:近隣への責任問題が発生しうる

老朽化した空き家は、所有者だけの問題ではありません。

屋根の一部が飛んで隣家の車を傷つけた、塀が倒れて通行人にけがをさせた——こうした事故が実際に起きており、空き家の所有者が損害賠償責任を問われたケースがあります。

「自分の土地の建物が原因で他人に損害を与えた」場合、民法上の「土地工作物責任」により、原則として所有者が責任を負います。保険に加入していないケースも多く、突然の多額の賠償請求が来るという事態も、空き家放置の現実のひとつです。

また、雑草の繁茂・ゴミの不法投棄の温床になること・害虫の発生源になることなども、近隣との関係を悪化させる原因になります。

「放置していい場所」ではなく「管理責任が続く場所」として認識することが大切です。


放置すると起きること④:相続の手続きが複雑になる

「親が亡くなったけど相続登記をしていない」という方は、今でも少なくありません。

しかし2024年4月から、相続登記が義務化されました。相続を知った日から3年以内に登記申請をしなければ、10万円以下の過料(行政上の罰則)が課される可能性があります。

それ以上に深刻なのが、時間の経過とともに相続関係が複雑化することです。

例えば、父親が亡くなって名義変更をしないまま数年が経つと、次は母親が亡くなる。その後、相続人のうちの一人がさらに亡くなる——という形で、相続人の数が増え、全員の合意を取り付けることが年々難しくなっていきます。

「今は動けないから後で」という選択が、「後になればなるほど動きにくくなる」という現実を生み出します。


放置すると起きること⑤:心理的な重さが積み重なる

これは数字には表れない話ですが、多くの方が実感していることです。

「実家がどうなっているか気になりながら、でも何もできていない」という状態が続くと、その「気になっている何か」が、心の中で少しずつ重くなっていきます。

帰省のたびに目に入る荒れた庭、使われていない部屋に積み上がった物、誰も来ない家に払い続ける固定資産税——これらが「解決されていない宿題」として頭の片隅に居座り続けます。

空き家の整理を終えた方の多くが、「スッキリした」「肩の荷が下りた」という言葉を使います。それは物理的な片付けの達成感だけでなく、長年背負っていた心理的な重さが下りる体験でもあります。


「動けない理由」の正体

ここまで読んで「わかっているけど、やっぱり動けない」という方に、少し立ち止まって考えてみてほしいことがあります。

「動けない」理由は、主に3種類に分けられます。

理由①:感情的なハードル(「親の思い出がある家を手放したくない」)

実家が親族一同の集まる本家だった場合、なくしてしまうと「親族が集まれない」「帰る場所がなくなる」という気持ちから抵抗を感じる方がいます。

これは正直な気持ちです。「売る」ことで、親との記憶が消えてしまうような感覚を持つ方もいます。

ただ、ひとつ問いかけてみてください。「この家を守りたい」という気持ちの奥に、「親への申し訳なさ」や「決断することへの罪悪感」はないでしょうか。「手放すことは供養に反する」という思い込みが、動きを止めていることがあります。

家を手放すことは、親の記憶を消すことではありません。形のある「家」を手放しても、記憶は残ります。

理由②:関係的なハードル(「兄弟と話し合えていない」「費用負担をどうするか決まっていない」)

複数の相続人がいる場合、誰かが「売りたい」と言えば別の誰かが「まだ待ちたい」と言う。その意見の違いを調整するエネルギーが、そもそも足りない——という状況はよくあります。

これは「誰かが悪い」というわけではなく、それぞれの立場や感情がある中での自然な摩擦です。ただ、この摩擦を放置することが、前述のリスクをじわじわと積み重ねます。

理由③:情報的なハードル(「何から手をつければいいかわからない」)

「売却?賃貸?解体?どれが正解なのか、調べると情報が多すぎてかえって迷う」——という声は多くあります。これは情報の問題ではなく、「自分の状況に合った選択肢が整理されていない」という問題です。


「今すぐ売る」以外の選択肢もある

「空き家の問題を解決する=売却する」だと思っている方が多くいます。しかし実際には、いくつかの選択肢があります。

選択肢①:売却する
最も根本的な解決策。費用・管理・責任問題をすべて終わらせることができます。ただし、相続登記・相続人全員の合意・不動産業者との契約など、複数のステップが必要です。

選択肢②:賃貸に出す
家賃収入を得ながら、売却の判断を先送りにできます。ただし、入居者が退去した後の修繕費・管理の手間がかかります。

選択肢③:空き家バンクへの登録
自治体が運営する「空き家バンク」に登録し、移住希望者などに安価で貸し出す・譲渡する方法です。売値にこだわらず「とにかく責任を終わらせたい」という方に向いています。

選択肢④:解体して土地だけにする
建物を解体して更地にすることで、買い手を見つけやすくなるケースがあります。ただし、建物がなくなると固定資産税の軽減措置が外れるため、解体後の売却がスムーズに進まないと逆効果になることもあります。

選択肢⑤:当面は最低限の管理だけ続ける
「今すぐ動くのは難しいが、放置もしたくない」という場合の暫定策です。定期的な換気・通水・草刈り・雨漏りのチェックなど、最低限の管理を続けることで、建物の劣化と近隣トラブルをある程度防げます。


「今すぐやっておくべき最低限のこと」

「まだ売るかどうか決めていない」という方でも、今すぐできる・すべきことがあります。売却や解体を急ぐ必要はありません。ただ、この最低限だけはやっておいてください。

① 相続登記を済ませる(2024年4月から義務化)

相続を知った日から3年以内が期限です。手続きは法務局で行い、司法書士に依頼することもできます。登記が済んでいないと、売却・賃貸・解体のいずれの手続きも進められません。

② 固定資産税の支払いを継続する

滞納すると差し押さえの対象になります。払い続けることだけはやめないようにしましょう。

③ 火災保険・建物保険に加入する(または確認する)

空き家になったことを保険会社に申告していない場合、保険が適用されないケースがあります。現在の保険内容を確認し、空き家であることを前提にした内容になっているか確認してください。

④ 年に1〜2回は現地を確認する

遠方に住んでいる場合は難しいかもしれませんが、年に1〜2回は実際に足を運んで建物の状態を確認することをおすすめします。雨漏り・害虫の侵入・不法侵入などは、早期発見で被害を最小化できます。


「今すぐ動くべき人」の判断チェックリスト

以下の質問に、いくつ「はい」がありますか。

  • ☐ 親が亡くなってから1年以上、実家の名義変更(相続登記)をしていない
  • ☐ 実家の固定資産税をいくら払っているか把握していない
  • ☐ 建物の屋根・外壁・雨どいの状態を最近確認していない
  • ☐ 兄弟・相続人とこの1年間で実家の話を一度もしていない
  • ☐ 実家が空き家になって3年以上が経過している
  • ☐ 近隣の方から苦情や連絡が来たことがある
  • ☐ 「気になっているけど後回しにしている」という感覚がある

1つでもあれば: まず「最低限やること」(相続登記・保険確認・現地確認)を確認してみましょう。

3つ以上あれば: 不動産業者・司法書士への相談を検討してください。現状を専門家の目で整理してもらうことで、「自分には何が必要か」が見えてきます。


まとめ:「決めなくていい。でも、知っておいてほしい」

「実家をどうするか、今すぐ決めなくていい。でも、何もしないことにもコストがある、ということだけは知っておいてほしい」ということです。

放置が生む5つのリスク——固定資産税の増税リスク・建物の劣化・近隣への責任・相続の複雑化・心理的な重さ——これらは、時間の経過とともに静かに積み重なっていきます。

「いつか動こう」が「いつまでも動けない」に変わらないために、まずは今の自分の状況を把握することから始めてみてください。現状が見えると、次に何をすべきかが少しずつ見えてきます。


よくある質問(FAQ)

Q. 親が亡くなってすでに2年経ちますが、相続登記していません。今からでも間に合いますか?
A. 相続登記の義務化(2024年4月施行)では、「相続を知った日から3年以内」が期限とされています。2024年4月以前に発生した相続については、2027年3月31日までに登記を行えばよいとされています。ただし状況によって異なるため、早めに司法書士へ相談することをおすすめします。

Q. 売る気はないが、維持コストを減らしたい。どうすればいいですか?
A. 「空き家管理サービス」を利用することで、定期的な巡回・換気・通水などを代行してもらえます。費用は月額5,000円〜2万円程度の業者が多いです。「今すぐ売らないが放置もしたくない」という方の暫定策として有効です。

Q. 兄弟が売却に反対していて話が進みません。どうすればいいですか?
A. 共有名義の不動産は、相続人全員の合意なしに売却できません。まずは「反対する理由」を丁寧に聞くことが第一歩です。「思い出があるから売りたくない」という感情的な理由と「維持コストを誰が払うのか」という現実問題を分けて話し合うことで、合意が生まれやすくなります。それでも解決しない場合は、弁護士への相談も選択肢に入れてください。


この記事の情報は2026年5月時点のものです。税制・法律は改正されます。相続登記・売却・解体の手続きについては、士業などの専門家にご相談ください。

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