夫も一人っ子、自分も一人っ子。結婚したことで、二人はそれぞれの実家のお墓を、将来的に管理していく立場になった——。
こうした状況が、今の日本では珍しくなくなっています。少子化が進む中で、一人っ子同士が結ばれるケースは自然に増えており、それに伴って「複数のお墓を、どう扱うか」という問題に直面する夫婦が増えています。
インターネットで調べると、「両家墓」「寄せ墓」という言葉に出会います。複数の墓を一つにまとめる方法、費用、手続きの流れ——情報は揃っています。
でも、実際にこの問題に直面した人の多くが立ち止まるのは、手続きの話ではありません。「夫の家の墓と、妻の家の墓。どちらを残して、どちらをたたむのか」という、決断そのものの重さです。
この記事では、その決断の難しさに正面から向き合います。
この記事でわかること
- 「両家墓」「寄せ墓」という選択肢の前に、向き合うべきこと
- なぜ「どちらを残すか」の決断が、単なる合理性では決められないのか
- 「たたむ側」の家族が抱える感情への配慮
- 夫婦間で意見が分かれたときの、話し合いの進め方
- 「まとめない」という選択肢も、実は現実的であるという視点
まず知っておきたい:複数の墓をまとめる方法があるということ
夫婦それぞれの実家に墓がある場合、両方を維持し続けることの負担は、想像以上に大きくなります。お参りの回数、管理費の支払い、遠方であればなおさらの移動の手間——これらが二重にかかることになります。
こうした状況に対する一つの解決策として、「両家墓」という考え方があります。これは、複数の家のお墓を一つにまとめたお墓のことで、二世帯墓とも呼ばれます。
まとめ方には、大きく2つの方法があります。一つは、片方の家の墓を墓じまいして、もう片方の家の墓に遺骨を移すという方法。もう一つは、両方の家の墓を墓じまいし、新しく両家墓を建てるという方法です。
同じ区画の中に複数の墓石が並んでいる場合には、それらを一つの墓石にまとめる「寄せ墓」という方法も選択肢の一つです。
これらの選択肢は、たしかに負担を軽減する現実的な方法です。ただ、この記事で立ち止まって考えたいのは、その先にある問題です。
「どちらを残すか」は、単なる合理性で決められない
両家墓を検討する際、多くの夫婦が最初にぶつかるのが、「どちらの家の墓を残し、どちらをたたむか」という問題です。
一見、これは合理的に決められそうな問題に思えます。「アクセスがいい方」「管理費が安い方」「墓地が広い方」——こうした基準で決めれば、簡単に答えが出そうです。
しかし実際には、そう簡単にはいきません。なぜなら、「墓をたたむ」という選択には、「その家系の墓が終わる」という、象徴的な重みが伴うからです。
「夫の家の墓をたたんで、妻の家の墓に合わせる」という決定は、単なる不動産の統合ではありません。それは、片方の家系にとって、「先祖代々受け継がれてきた墓が、ここで一つの区切りを迎える」ということを意味します。
この重みを、夫婦のどちらか一方だけが背負うことになると、そこには見えない不均衡が生まれます。
「たたむ側」の家族の気持ちを、想像する
両家墓を検討する時、つい「効率的にどちらかにまとめよう」という発想に偏りがちです。しかし、そこで一度立ち止まって考えてほしいのが、「たたむ側」になる家族の気持ちです。
自分の実家の墓がなくなるという事実は、当事者にとって、思っている以上に重い意味を持つことがあります。たとえ理屈では「合理的だ」とわかっていても、感情がそれに追いつかないことは、決して珍しくありません。
特に、その家の親(配偶者の父母)がまだ存命の場合、「自分たちの代で、先祖の墓を終わらせてしまう」ということへの抵抗を、強く感じることがあります。
この気持ちを、「非合理的だ」と片付けてしまうのではなく、「その人にとって、この墓がどういう意味を持っていたのか」を、まず理解しようとすることが、円満な話し合いの出発点になります。
「決断の重さ」を、一人に背負わせない
両家墓を検討する夫婦の中で、しばしば起きるのが、「たたむ側」の配偶者だけが、その決断の重さを一人で背負ってしまうという状況です。
「自分の家の墓をたたむことに同意した」という選択は、その人にとって、自分の親族に対する説明責任を伴うことがあります。「なぜ、自分の代で先祖の墓を終わらせることに同意したのか」という問いに、その人自身が向き合わなければならない場面が出てきます。
この負担を、パートナーがどれだけ理解し、支えられるかが、夫婦としての今後の関係にも影響します。
「たたむ側」の配偶者に対して、「合理的な決断だったのだから、気にしなくていい」と簡単に片付けるのではなく、「あなたにとって重い決断だったと思う」という言葉を、意識的にかけることが、この問題を乗り越える上で、実は大きな意味を持ちます。
夫婦で意見が分かれたとき
「自分の家の墓は残したいが、相手の家の墓はたたんでもいいと思っている」——このように、夫婦の間で意見の温度差が生まれることもあります。
この温度差自体は、責められるべきものではありません。それぞれが育った環境、それぞれの家族との関係性、それぞれの価値観によって、墓に対する思いが違うのは自然なことです。
ただ、この温度差を放置したまま話し合いを進めると、「相手は自分の家の墓を軽く見ている」という誤解が生まれやすくなります。
大切なのは、「どちらの墓を残すべきか」という結論を急ぐ前に、「お互いにとって、それぞれの実家の墓がどういう意味を持っているか」を、丁寧に伝え合う時間を持つことです。
この対話を経ずに結論だけを出そうとすると、たとえ合意にたどり着いたとしても、どちらかの心に、消化しきれない気持ちが残ることがあります。
「まとめない」という選択肢も、視野に入れる
両家墓・寄せ墓という選択肢を検討する中で、見落とされがちなのが、「無理にまとめない」という選択肢です。
両方の墓を維持し続けることの負担は現実的な問題ですが、その負担を軽減する方法は、必ずしも「一つにまとめること」だけではありません。
たとえば、片方の墓は永代供養に切り替えて管理の手間を減らし、もう片方はそのまま維持するという方法もあります。両方とも永代供養付きの樹木葬に変更し、それぞれ別の場所のまま管理の負担だけを減らす、という方法も考えられます。
「まとめること」を前提に話し合いを始めると、「どちらを残すか」という難しい二択に縛られてしまいます。一度、その前提を外して、「そもそも、まとめる以外の解決策はないか」を考えてみることも、有効なアプローチです。
決断を急がず、時間をかけることの価値
両家の墓をどうするかという問題は、多くの場合、緊急に決めなければならないものではありません。管理費を払い続けられる限り、当面は現状維持のまま、時間をかけて考えることも可能です。
この種の決断を急いでしまうと、後から「あの時、もっとちゃんと考えればよかった」という後悔につながりやすくなります。
「今すぐ決めなければならない」という焦りを手放し、両家の親族を交えてじっくり話し合う時間を持つことが、後悔の少ない選択につながります。
特に、双方の親がまだ存命の場合は、その意向を直接聞く機会を持つことをおすすめします。「墓をどうしたいか」について、本人たちの気持ちを確認せずに子ども世代だけで決めてしまうと、後々の心残りが大きくなることがあります。
まとめ:「まとめること」より「向き合うこと」を優先する
夫婦それぞれの実家に墓がある、という状況は、これからますます増えていく現実です。両家墓・寄せ墓という選択肢は、その負担を軽減する有効な手段です。
ただ、この記事で伝えたかったのは、手続きの前に、向き合うべき感情があるということです。
「どちらを残し、どちらをたたむか」という決断は、単なる効率の問題ではありません。そこには、それぞれの家系の歴史、それぞれの家族の感情、そして夫婦としてこれからどう支え合っていくかという問いが、複雑に絡み合っています。
結論を急ぐのではなく、お互いの気持ちを丁寧に聞き合うことから始めてみてください。それが、この難しい決断を、後悔の少ない形で乗り越えるための、最も確実な道筋です。
墓じまい代行サービス|墓じまいパートナーズこの記事の情報は2026年5月時点のものです。両家墓の形式・費用・手続きは霊園・寺院によって異なります。具体的な検討にあたっては、複数の霊園・石材店・行政書士にご相談の上、ご判断ください。
